漂う随想

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「なぜ仕事がツライのか ”燃え尽き症候群”を生むシステム」NHK

 

 

 BS世界のドキュメンタリー「なぜ仕事がツライのか ”燃え尽き症候群”を生むシステム」を視聴したので、個人的メモ。

 

 製作はフィンランドの Yellow Film & TV (2022年)。原題「The Happy Worker or 

HOW WORK WAS SABOTAGED」。

 

 私の心に留まった言葉を抜き出しておきます。

 

労働の現実:

  • 「テクノロジーが人類を労働から解放し、週15時間労働が実現する」とケインズは予言していたが、実現していない。それは「事務職」が増えたから。ケインズの時代は全雇用の4分の1だった事務職は、現在は4分の3を占めている。また、管理職も増えた。
  • 100年前、事務仕事は暗黒の未来として描かれた。
  • 世界中の全従業員の20%が意欲的、61%が意欲的でない。19%が不幸のあまりに会社の足を引っ張っている。
  • 多元的無知:「自分だけが違う」と信じ込んでいる状態。うまくいかない原因を、やることが多すぎて疲れていることではなく、自分がサボっているせいだ、能力不足のせいだと感じてしまうこと。そして、周囲に打ち明けたり相談したりできない。
  • 従業員の2人に1人は燃え尽き症候群。ミレニアル世代では5人に3人。
  • 19世紀に生み出されたのがマネージャー、管理職。当初は機械の調整が専門のエンジニアが管理職になることが多かった。従業員を歯車と見做し、調整すれば生産効率が上がると考えた。1970年代後半には、会社はもう生身の人間がいる場所とは認識されなくなった。
  • 企業が目指すのは株主価値の最大化。そこでは従業員は人的資源に過ぎず、経営上の数値として扱われた。もはや歯車でさえない単なる数字。
  • 従業員は強いプレッシャーに曝されるようになった。最初はそれは短期間で、いわば短距離走だったが、やがてそれはマラソンになった。
  • 会社から何が期待されているかを知る従業員は半数。
  • 管理職の役割は、共通の目標のもとチームを一つにまとめること。
  • 管理職に推された理由は、たいてい次の2つのどちらか。「勤続年数」「それまでの成績が良かった」。どちらも有能な管理職の資質とは無関係。
  • なぜ管理職になりたいか。「給料が上がるから」「達成感を味わえるから」。
  • 管理職は部下を個人として尊重せず、人間らしい気づかいなどしていないかもしれない。頭にあるのは仕事のことだけで、部下の成長など考えてもいないかもしれない。こういう姿勢はチームの士気を損なうだけでなく、管理職その人にも悪影響を与える。

教育の影響:

  • 教育は、幼い頃に芽生えた自然な好奇心を破壊するために行われているようなものだ。初等教育の段階で、子どもの自然な好奇心が叩き潰されている。
  • 小学校における決まり事の多くは、工場労働者を育成するために作られたもの。例えば、「ベルが鳴ると規律して違う教室に移動する」といったように。教室を移動する必要などないのに。もはや学校を卒業する生徒の多くは工場でなど働かないのに。
  • 意味などわからなくても働く人間に仕立て上げる場所、それが学校である。
  • 学校とは、ちょっと考えれば誰でも変だと気付くはずのことに、疑問を持たないように教育する場である。例えば、「利益を生まないのに何故この書類が必要なんだろう」とか、「誰も読まないのに、なんでこんな報告書を書くのだろう」とか、当然の疑問ですが、クソどうでもいい仕事の担い手たちは、そういう質問をしないことも仕事のうちだと弁えている。

労働の価値とは:

  • 子どもが、自分と周囲の世界との区別がつくのは、自分の力で変化を起こせると分かった瞬間。「手を動かして鉛筆を転がす」など。そうした感覚を奪われると、人は崩壊する。自分を人間だと感じる大元の理由が奪われてしまうから。
  • 労働の価値を見直す時期にきている。多くの人が毎日自分の仕事をしながら、自分のしていることには価値も意味も無いと感じているのだから。市場経済が認める価値と働き手が感じる価値の間に不一致が生じていて、何かが大きく間違っていると人々は感じている。
  • 労働者は、本来、仕事とは世の中の役に立ち、自分の心の中にある何かを深めていくものだと思っている。
  • 現在の経済システムの最悪な点の1つは、実際に目に見える仕事、確実に人のためになる仕事ほど、報酬が低くなるという点である。病院の清掃員は賃金の10倍の価値を生む。保育従事者は賃金の7倍の価値を生む。ロンドンの銀行家は賃金の7倍の価値を毀損する。
  • 時代を追うごとに生産性は上がっているのに賃金は横這い。この差額は富裕層に集まり、彼らは投資に使っている。
  • ミレニアル世代は、両親や祖父母の同年齢時よりも、40%貧しい。

より良い労働とは:

  • ある仕事に対して向き・不向きが生じる時、そこには6つの要因がある。(「6つ」と確かに述べているのに、5つしか紹介されていない気がしますが?)
    1. 仕事量。
      需要が高い仕事なのに、人手が足りない、時間も情報も手段も無い、など。これではツライ。
    2. 裁量権
      ある仕事に対して、どの程度、決定権や自主性が与えられるか。仕事量が多くても裁量権が大きければ問題はないが。
    3. 報酬。
      どれだけ頑張っても、見合う対価が得られないではツライ。これはお金や福利厚生だけでなく、社会的認知、感謝も往々にして大事。
    4. コミュニティー
      日常的に身を置く社会的環境。上手くいっているコミュニティーでは助け合う環境が整っている。相互に信頼し、尊重する相互依存の状態。
    5. 公平さ。
      職場環境に不公平がある、自分が不公平に扱われている、と感じると、会社への不信感が激増。会社との間で価値観の対立があれば、状況はさらに悪化。

まとめ:

  • 資源を最適配分して利益の最大化を図る市場経済は、本当に効率的か? それでも労働時間を減らせないなら、バカバカしいほど非効率で欠陥のあるシステムなのでは?
  • もはや生産や消費だけで経済は語れない。今ある仕事のほとんどは、何かを作り出しているわけでも別の物に作り替えているわけでもない。現状維持に努めているだけだ。
  • 仕事を全部ロボットに任せてしまうのは、大問題。多すぎる休日は、一日中テレビを見続けて鬱になるのがオチ。
  • 人はもともと誰かの役に立ちたいと思っているもの。だから、好きにさせておけば大抵はいい事をする。